香港・マカオ・中国に行ってきました①

香港を何度も訪れたことがあるのだが、何回来ても面白い。いつ訪問しても楽しめる都市って、どのくらいあるのだろうか。ニューヨークやパリも魅力的だ。ブロードウェイに立ったときの高揚感はいまでも忘れられないし、パリ郊外のヴェルサイユ宮殿の豪華さには圧倒された。だが、香港ほどバラエティに富んでいない気がする。自然アリ、リゾート地アリ、金融街アリ、スラムっぽい場所アリと、なんでも揃っているのが、香港という地である。

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旺角

滞在中の7月1日に、中国への返還21年を迎えたわけだが、あと29年経つと完全に中国になってしまう。1997年7月1日に、香港はイギリスの手から中国へと渡った。アヘン戦争で、当時中国を支配していた清がイギリスに敗れたために、香港島がイギリスの支配地になった。その後九龍半島もイギリスの支配地になる。新界というのは、深セン九龍半島のあいだの土地で、イギリスが清から99年間租借したエリアだった。香港島九龍半島が水不足のために、新界を清から租借したのだ。新界の租借期限が近づくにつれ、この地の取り扱いがイギリスと中華人民共和国とのあいだで話し合われた。イギリスのトップがマーガレット・サッチャーで、中国のトップが鄧小平だ。サッチャーは鉄の女と呼ばれ、強いイギリス首相の象徴的存在だった。フォークランド紛争を解決し、今度は香港である。サッチャーは香港もイギリスの支配が続けるつもりだったのかもしれないが、向こうのほうが一枚も二枚も上手だった。鄧小平というと天安門事件だろう。胡耀邦趙紫陽から政治の主導権を奪っただけでなく、多くの血が天安門広場で流れた。「鉄の●●」という称号は、サッチャーよりも鄧小平に相応しいだろう。この「鉄の男」が戦争をちらつかせたため、イギリスが折れざるを得なかった。租借していた新界どころか、九龍半島香港島も中国に明け渡してしまったのだ。鉄道網が敷かれている新界と九龍半島あいだを分断することなどできない。新界だけを中国に返すことは不可能に近いだろう。中国に香港が返還されると決まって、カナダに移住した香港人も多いという。もっとも香港人はカナダで馴染めたとはとても思えない。バンクーバーに訪れたときに、スカイトレインと呼ばれるモノレールのなかで香港からの移民と思われる人とアングロサクソン系のカナダ人が口論しているのを度々目撃した。カナダに移民した香港人も香港に戻ってきたという。香港でたまにネイティブさながらの英語を話す香港人を目撃するが、彼らは出戻り組なのかと思ってしまう。出戻り組の香港人が香港で生活できるくらい、英語ネイティブでも快適な土地が香港なのだろうか。もっとも、この状況が続くかどうかはわからない。

ともかく香港返還の一件でもわかるように、中国のしたたかさというのは、マカオ返還の際にも表れているのだがそれはまた追々ふれる。中国人というのは、「隙を見せたら付け入る」という印象が強い。列を作っていても隙間があったら割り込んでくるのが、中国人だ。隙間を開けたほうが悪いというのが、中国人のロジックなのだろう。新界の99年租借というのは、まさに「隙間」だった。今の南沙諸島尖閣諸島問題を見ていると、中国がごっそりいただいてしまうという危機感は相当強い。香港やマカオの返還経緯を知ると、余計に強く感じる。

今の香港は、一国二制度だ。香港内は「一応」民主化が保証されている。香港が中国に返還される前も中国とイギリスとのあいだで小競り合いが続いたのだが、やはり中国に分があるのだろう。いまのところ、香港内では検閲もなければそこら中に公安が経っているわけでもない。中国が29年後も共産主義国なのかはわからないが、29年後の香港が魅力ある街であり続けるかについて大変疑問に感じる。

前回訪れたときにはランタウ島や大埔といったマニアックな場所に多く訪れたので、今回はメジャーな場所を中心にウロウロしてみた。スタンレーやレパルスベイ、男人街、九龍公園など。意外に訪問してない場所があるのに驚いた。香港に初めて訪問する人なら、目が行き届きにくい場所でもある。だからといって、大埔やランタウ島ほどマニアックでもない。リピートするならこのスポットに行くべしといったところか。それだけ、香港にはいくべきスポットが多いことの証左だろう。香港には4回訪れたが、実は香港ディズニーランドにも入園したことがなかったりする。行ってもすることがないだろうと思ってしまうが。

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夜の女人街

女人街は賑やかで入りやすいのだが、男人街はどこか暗い。一応、女人街は女性向けのモノが多く、男人街は男性向けのモノが多く売られている。男性向けのモノとは、文字通り「男性が享楽するためのモノ」である。一方女人街では、女性向けのスカーフや、扇子、Tシャツなどが販売されている。決して、「女性が享楽するためのモノ」ではなく一般的な品物が売られている。ガイドブックで男人街ではなく女人街がクローズアップされるのも、当然と言えば当然だろう。もっとも、女人街を運営しているのは誰なのかと言えば、またややこしい話になるのだが……。

場所的に言うと、ネイザンロードを挟んで東側が女人街、西側が男人街である。男人街の西隣には上海街が南北を走っている。この上海街が知る人ぞ知る風俗街になっていて、黒服の女性がずらっと並んでいる。旺角から佐敦までだから結構な距離だろう。地下鉄で2駅分なので、2kmくらいあるのだろうか。運動するにはちょうどいい距離だが、30℃近い夏に歩くと汗びっしょりになるので結構キツい。

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上海街 歩道で座っている黒い服の女性が風俗嬢

マカオにも訪れたのでいずれ報告するが、習近平による風俗への取り締まりが厳しいらしい。前回マカオに訪問したときには「リスボア回遊魚」と呼ばれる風俗嬢が、カジノホテル内にいたのだが、今ではいないとのこと。ちなみにリスボアというのは、マカオ1のカジノであるグランドリスボアを指している。マカオポルトガルの植民地だったからか、ポルトガルの都市リスボンに由来しているのだろう。ともかく、リスボア回遊魚と呼ばれる女性たちは、中国本土に送還されたそうだ。香港も似た感じで中国からの出稼ぎで上海街に来ているのかと思うのだが、取り締まりが厳しくないということか。ストリートを挟んで多く立ち並んでいる。もっとも、彼女たちのもとへと向かう男性の姿はない。この辺が、アムステルダムの飾り窓やソウルの588との違いだろう。知る人ぞ知るというわけでもないのだが、普通に移動する香港人以外はほとんど上海街を歩いている様子ではなかった。帰宅途中だったり、佐敦近くの夜市でお酒でも飲むのだろうか。男人街には似つかわしくない若い香港人が多く歩いている。注意して歩道を注視しないと、旅行客には風俗街だと気づかないかもしれない。歩道をポツポツと黒服の女性が立ち並ぶ風景も、いつまで見られるのだろうか。香港が徐々に中国化しているので、このままの状態が続くとは思えないのだが。

 

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夜の佐敦

上海街の影響なのか男人街がもともとそういう場所なのかはわからないが、男性向けのモノが多く売られている。いわゆる大人の玩具というヤツですね。LEDか何かでピカピカ光っている大人の玩具が、夜店で露骨に売られているので引きます。男人街は、カップルや女子旅で向かない場所ですね。女人街が台湾の夜市やパリのオープンカフェの側に属するならば、男人街はシンガポールのゲイランやアムステルダムの飾り窓の側に属する場所だろう。男人街のような怪しい場所もあって、モダンな都市空間もあるというのが、香港の魅力だと思う。